「やさしく背中を押すように」それぞれの暮らしに溶け込む歌を:瀬戸口 恵 後編

text by ユウノアツシ、うえみずゆうき

瀬戸口恵。カジュアルなカフェからアンダーグラウンドの巣窟のようなライブハウスまで、福岡の音楽シーンにおいてこんなにも幅広い場所で活躍しているシンガーは他には知りません。

16年には引越し業者のテレビCMにも楽曲が起用されるなど、福岡のSSWとしても確かな実績を残しています。

やわらかな歌声に、時折見え隠れする揺るぎない思い。後編では、ソロ活動の変遷と、現在の心境を紐解いていきます。

前編:「やさしく背中を押すように」それぞれの暮らしに溶け込む歌を:瀬戸口 恵 前編

軽やかなフットワークで広がる縁

バンドの解散を機に、ソロ転身を決意した瀬戸口。

解散ライブのオープニングアクトでソロデビューを果たし、いよいよ準備は整いました。

――バンドは解散してしまったんですけど…ソロで歌わせてもらえませんか?

バンドの解散が決まる前に声をかけられていたライブにソロで出演。そのライブで「アコ唄ナイト」の主催者と再会。それからアコ唄ナイトに頻繁に出演するようになりました。

アコ唄ナイトにはイベンターもよく観に来ていたため、次々にライブのオファーが舞い込んでくるようになりました。

――あるライブハウスの店長さんが「名刺代わりにCDを作ろうよ」って声を掛けてくださって、3曲入りのCDを一緒につくってくれたんです

数々の温かな縁に支えられながら、瀬戸口は活動をどんどん広げていきました。

メジャーを断ち、開き直る 

――活動していく中で、大手事務所の方に声をかけていただくようになって…東京でもライブするようになったんです。

一見、瀬戸口の活躍ぶりは順調そのものに見えますが、決して悩みがなかったわけではありません。

――事務所の方と打ち合わせする中で、自分の思い描くものと違う角度で進んでいくのがつらくて。そういうものなんでしょうけど…それがすごく嫌で。それだったら歌いたくないなと思って、すべてお断りしました。今思えば、若かったというか(笑)

最優先すべきは自分の思い描く世界観。高校時代にメジャーシーンに憧れてシンガーになった瀬戸口が、メジャーの道を断つというのは断腸の思いでした。

――自分は地元のライブハウスとかバーとかでお客さんの顔を間近で見れる環境で歌って思いを伝えられたほうがいいんじゃないかって。メジャーを断ったことで開き直って、福岡での活動にこだわりました。

とにかく呼ばれたところには行く。月に15~20本ライブというハードスケジュールをこなしました。

福岡にこだわってライブを積み重ねて行く中で、だんだん実力が認められ、県外アーティストとの共演の機会が増えました。

県外アーティストとの共演をきっかけに、今度は共演者のホームタウンにライブに呼ばれるという流れに。

――その土地土地で音楽性もお客さんも雰囲気が違って。本当にすごい人もたくさんいて、落ち込むこともあるし。それを取り入れて成長している自分もいたりして。その繰り返しですね。

「音楽」という日常会話

――形は変わっていくかもしれないけれど歌をやめることはないと思います。ライブのときにお客さんが「元気もらった」って声かけてくれて、その言葉に逆に元気をもらったり。そのやりとりはもうライフワークなのでやめることはできないですね。

歌う楽しさを知ってしまった以上、もう音楽はやめられないといいます。

また、自身がつくり出す音楽についてこう語ります。

――特別なことは歌っていないんです。自分が感じた日常のことを書いていて、私は私のことだけど、聞いてくれた人それぞれが自分の日常に置き換えて聞いてくれたら嬉しいですね。それぞれの日々に寄り添えるような、「音楽」で会話ができたら。

瀬戸口はリスナーとの距離感を何より大切にしています。

もう一度挑戦してもいいのかな

最近は、他のミュージシャンが瀬戸口の曲をカバーし、演奏する場面も増えてきました。

かつて瀬戸口がaikoの曲を一生懸命歌っていたときのように、自分のつくった曲を誰かが歌ってくれることは大きな喜びなのだそうです。

そうした体験やリスナーの方からの応援の声も増え、瀬戸口に心境の変化が起こってきました。

――5年前、メジャーを断ったあの頃は受け入れられなかったけど、今ならできるかもしれないなと思って。当時と違って、今は上京しなくても活動できる時代なので、もう一度挑戦してもいいのかなと思っています。

たった一人で歩き出した夢はさまざまな縁に支えられ、今では関わるみんなの夢になりつつあります。

それぞれの日常に寄り添う歌を届けるために、瀬戸口の挑戦はこれからも続いていきます。

瀬戸口恵:1988年生まれ、福岡在住シンガーソングライター。ギター片手に年間100本程のイベントへ出演。SSW活動のほか、バンド、ゲストボーカルやバックコーラス、楽曲提供等その活動の幅は多岐に渡る。ボーカルエフェクターを愛用。様々なスタイルで日々に寄り添う音楽を描く。
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