「不器用だからこそ」走り続けて見えたもの:鶴浩幸(IRIKO) 後編

text by うえみずゆうき

全国を飛びまわる精力的な活動で、福岡のバンドシーンを牽引するIRIKO。そんなIRIKOのフロントマン 鶴浩幸の半生とIRIKOの13年間の軌跡についてご紹介します(前編はこちら)。

3200組中の10組に選ばれて

高校卒業後の2006年、「バンドを やるとしたら、本格的にやりたい」という気持ちから、活動の拠点を地元久留米福岡市に移すことを決意。 デモテープをビブレホールに持ち込み、福岡でのキャリアをスタートさせました。

2008年、ビクター スピードスターレコーズ 15周年オーディションに参加。3200組中の10組に勝ち残り、FINAL STAGE@LIQUIDROOM ebisu に進出。ブライアン・バートン・ルイス賞を獲得しました。

プロミュージシャンとして生きていく道を強く意識することになった出来事でした。

このオーディションで自信をつけたIRIKOは、より一層精力的に活動。 CDリリースと全国ツアーをくり返す日々で、4年間で7枚の作品を残しています。

左から、山田(Ba)、中西(Gu)、田中(Dr)、鶴(Vo,Gu)

「理解してもらわなければならない」という意識で言葉が出てこなくなった

同期のバンドが次々にブレイクしていく中で、IRIKOはなかなか一山越えられずにいました。

ーー「このままの楽曲とバンドの状態じゃ人前でライブはできない」とメンバーの山田が言い出し、ライブ活動を休止して音源を制作することにしました。うまく説明できないですけど、なんとなく壁というか「このままじゃ、ただのいいバンドで終わる」という危機感みたいなものはメンバーで共有していましたね。もっと外に向けて、もっと人に伝わりやすい音楽をやりたいって思いが出てきて。そうするとメロディって、とても大事だなと思って。

バンドの方向転換を図り、期限を決めずに作品づくりに取り掛かりました。 この制作期間、鶴はかつてない苦しみを味わうことになります。 聴き手を意識した途端、言葉がまったく出てこなくなったのです。

ーー「人に理解してもらわなければならない」みたいな意識と自分が納得できるもののバランスがうまく取れなくて。あの頃、8kgぐらい痩せましたね。相当なプレッシャーだったんだと思います。今思えば、これが音楽人生の転換期でしたね。

2012年から2013年、1年間の月日を経て、ついにミニアルバム「about your spring」が完成。 地獄の期間を乗り越えたことで、鶴は確かな自信を手にしていました。

オリジナルメンバーの脱退とドラマー現地調達ツアー

2013年、「about your spring」リリースに伴い、満を持して全国ツアーを敢行。

しかし、ここでもまた大きな壁に直面します。 ツアー終了後、メンバーの田中(drums)が脱退を宣言したのです。 高校時代からのオリジナルメンバーを1人失いました。

ーーツアーの後、「普通の生活に戻りたい」ってアイドルみたいなことを田中が言い出して。「そうか」って言ってはみたものの。…相当ショックでしたね。

田中脱退後、メンバーで幾度となく話し合いを重ね、正規ドラマーを加入させることなくサポートメンバーでの活動を決意しました。

2014年、「サポートドラマー現地調達ツアー」と題し、その名の通りのツアーを敢行。 サポートには、久野洋平(cinema staff)、賢三(八十八ヶ所巡礼)、ショウダケイト(ircle)、山田耕平(nayuta)、4名のドラマーが参加しました。

このツアーを通じてサポートメンバーとのコミュニケーションを学び、サポートメンバーとでも活動していけるバンドの新しい体制を確立しました。

薬院BEAT STATIONでのワンマンライブの様子(2016年)

理解されたい気持ちと納得したい気持ちのバランスをとる楽しさ

その後は、飛ぶ鳥を落とす勢いで活動。 自主企画「アマガミ」の開催、2ndアルバム「愛は祈りのように」リリース、ツアーファイナルでの薬院ビートステーションでのワンマンライブなど数えればキリがない。

ーー曲づくりは相変わらず難産ではあるんですけど、理解されるものをつくりたい気持ちと自分が納得するものをつくりたい気持ちのバランスを取るのが楽しくなってきたんですよ。ファンに喜んでもらえたときには本当に嬉しいです。最近はIRIKOを知ってほしいという気持ちがどんどん強くなってきています。逆に、それがなくなったときには、バンドをやめると思います。

自分の内側の世界と外側の世界のバランスを楽しめるようになった鶴。 走り続けたからこそたどり着いた境地なのでしょう。 理解されることを意識し、プレッシャーで言葉を失った、あの頃の姿はもうありません。

鶴浩幸: 八女郡広川町出身。2004年、IRIKOを結成。ボーカル・ギターを担当。IRIKO公式webサイト