「リスナーを先導するスロータッチを」上京の決意と野望:掛優大(STEPHENSMITH)前編

text by 糸山晃司

――「スロータッチ」っていうジャンルを確立したいんですよ。

東京に行く前になんとしても話を聞きたいと取材の約束を取り付けた人こそ、トリオバンドSTEPHENSMITHの掛優大。話の核心をつく一言は、スロータッチという概念についてのものでした。

最低限の音数、最小の編成で、洒落ていながらもどこかノスタルジックなバンドのフロントマンが語る「音楽」とは?

古今東西のさまざまな音楽に影響を受けて辿り着いた名曲「夜釣」。掛が音楽を生み出す背景にあるのは、どういう人生だったのでしょうか?

前編では、これまでの人生やルーツに迫ります。

恵まれた環境にあった少年時代

――最初に興味を持ったのはOASISと、それから斉藤和義。そこからスティービー・レイボーンを好きになってどんどんブルースにハマっていきました。

家には、ギターを弾いていた父親・兄のおかげで良質な音楽と楽器が揃っている環境。その影響で邦楽よりも洋楽が身近にある状態でした。

中学2年の頃には仲の良かった友人がギターを始めたこともあり、掛自身も自然とギターを爪弾くようになっていきます。

高校に入ると、スポーツ校だったこともあり、音楽活動はもっぱら家で一人。ひたすら衝動を溜め込みながら悶々とギターを弾く日々でした。

一方で、バドミントン部のキャプテンという意外な過去も。

――エルレやバンプやラッドが市民権を得ていることも知りませんでした。そのくらい国内の流行とは無関係なところで音楽を聴いていました。

音楽好きな友人が増えることも、世間の流行りを追うこともなく。ジミヘンやゆらゆら帝国など、ひたすら自分がカッコいいと感じる音楽を掘ってはギターを弾く日々。好きな音楽は、少年時代からブレることなく今に至っています。

初期衝動の音を鳴らした大学時代

音楽をやりたくて進学した福岡大学。入学して軽音サークルで出会った友人とOasisのコピーバンドを結成し、人生初ライブを迎えます。パートはリアム・ギャラガー。ピンボーカルでの初ステージでした。

このコピーバンドで現ドラムの市原太郎と出会い、そこから掛の音楽人生の針も動き出します。

――初めてステージでギターを弾いたのはジミヘンのコピー。この時のライブは今でも観返します。なんていうか、この時の衝動的なライブって2度とできないような気がしてます。

高校時代からの鬱憤を晴らすように演奏したRed houseは、衝動という言葉通り、後にも先にも追随しない記憶に刻まれるものとなります。

ギターで感情を、彼自身が音楽を愛していることを表現するようなライブ。技術が追い付いていないからこそ出せた粗さが、より感情を引き立てたようでした。

――終わった後サークルの先輩に楽屋でほめられたことは今でもハッキリ覚えてます。

その後に組んだ初のオリジナルバンド「The Citizens」。年上のメンバーと組んだことで掛の中に3ピースの基盤が組み立てられます。

そしてSTEPHENSMITH結成へ

気心の知れた友人とバンドをやりたかったことや自分の曲をやりたかったという願望から、半年あまりでThe Citizensは解散、そしてサークルでジミヘンを共に演奏した市原太郎らと共にSTEPHENSMITHを結成。

――太郎くんは大学からドラムを始めたばっかりだったけど、技術は分からなかったしどうでもよくて、とにかく仲良い友人と一緒にバンドをやりたかったんです。

2013年当時、福岡の大学生バンドはかなりの盛り上がりを見せており、定期的に開催されるSPLICEというイベントに出演したことから、その輪の中に入り込むことでシーンに溶け込んだSTEPHENSMITH。

当時の若手バンドがこぞって出演していたイベント「SPLICE」

SPLICEは、掛の中で特別なライブとして記憶にインプットされています。

この時期の若手バンドを引っ張っていたJENNIFER ISOLATIONやBe here now!らと関わり合えたことで、バンドの在り方、活動のイロハを教わった掛。今でもあの頃の若手バンドシーンを懐古します。

音圧重視で邦ロック主体の当時、音数を抜き、空間で聴かせるSTEPHENSMITHの音楽は瞬く間に福岡に浸透していきます。ベーシストの交代や完成度が上がったこともあり、早くも翌年の2014年にはりんご音楽祭のオーディションを勝ち抜き初の大型フェス出演を果たします。

2015年も2年連続でりんご音楽祭への出演を果たし、全国区のバンドとも共演するうちに、上京が現実味を帯びていきます。

さらに翌年の16年には、福岡が誇る音楽フェス「CIRCLE’16」に初のニューカマー枠で出演。

前年も前々年もニューカマーの採用はないというなかなかハードルの高い審査をクリアしたSTEPHENSMITH。CIRCLE出演も追い風となり、飛ぶ鳥を落とす勢いで福岡での地位を確立します。

後編では、上京に寄せる思い、音楽やシーン、リスナーに対する考えを紐解きます。

掛優大:2013年福岡で結成のトリオバンドSTEPHENSMITHのフロントマン。 2014、15年りんご音楽祭出演、2016年circle出演、同年9月に全国流通音源「Sexperiment」をリリース。2017年より活動拠点を東京へ移す。ルーツミュージックを通じて温故知新の音楽を追求しています。