「リスナーを先導するスロータッチを」上京の決意と野望:掛優大(STEPHENSMITH)後編

東京に行く前になんとしても話を聞きたいと取材の約束を取り付けた人こそ、トリオバンドSTEPHENSMITHの掛優大。

最低限の音数、最小の編成で、洒落ていながらもどこかノスタルジックなバンドのフロントマンが語る「音楽」とは?

後編では、音楽観や上京への思いにフォーカスを当てます。(前編はこちら

東京でチャンスは「日常茶飯事」

――レーベル関係者が観に来てくれたり、イベント組んでくれることも増えてきて、でもそれって東京じゃ割と日常茶飯事感もあって。あんまり期待はしてないですけど、そういうチャンスが常にあるのはやっぱり魅力です。あと僕は自分と音楽をやりたい人と一緒にやりたいんで、脱退の時も特に止めるわけでもなくすんなりでしたし、今の大木君(現ベーシスト)の加入もかなり自然な流れでした。

満を持したわけではありませんが、大学4年生の年には決意していた上京。地方でも活動できる時代と言えど、やはり東京のチャンスの数は単純に魅力でした。音楽で生活するという野望ゆえ、メンバーの脱退も経験。

――あと界隈やライブハウスなどに縛られたくない。だから福岡っていう括りに縛られる気も必要もない、というのも東京に行く理由のひとつです。

福岡の活動の中で、カルチャーが衝突して常に新鮮なものに触れられるクラブでのイベントに出演できたのは大きかったと振り返る掛。福岡クラブシーンの重要地であるKieth Flackでコンスタントにライブできたのは実に貴重な経験で、これからもライブハウスやクラブといったひとつの垣根に収まることはありません。

垣根を超えるのは音楽も同じです。スリーピースにこだわりながらも、時には打ち込みを使用し、時にはホーンや鍵盤を入れた大所帯で大団円を迎える音の多様性も彼らの音楽の魅力です。

ミュージックシティ天神、6人編成でのライブ

日本語の歌詞には拘りたい

音楽を作る上でのこだわりを聞いたところ、そのひとつに挙げたのが日本語詞を書くということ。

結成当初こそ英詞も書いていましたが、坂本慎太郎の影響もあり日本語の奥ゆかしさを追求。昨今日本でも英詞で歌う、世間からはいわゆる「世界基準」と呼ばれるアーティストやバンドが出てきましたが、そうした世界基準にも疑問を呈します。

――世界基準=英語だと思われているのがおかしいですよね。日本語で歌って世界に評価されるのが本当の「世界基準」だと思います。

たとえばポルトガル語で歌われる南米の音楽、フランス語、イタリア語、中国語。その国の言葉でありながら世界で認知される音楽こそが世界基準。世界は英語だけじゃないのは当然のことですね。そんな思いを込めて、彼は日本語詞を書き続けます。

流行りを作る側にならないといけない

――安易に自分らのことをシティポップってカテゴライズして安心してる人のことはもう放っておいてます。ただ、そうやって興味を持ってくれるのはありがたいこと。聴いてくれる母数が増えてきている実感は感じてるんですが、その反面評価のされ方のバランスを取るのが難しいって感じるようになってきました。

音楽活動の目標であり原動力にもなっている「流行を作る」ということ。

掛は流行に乗るよりも流行を作りたいと言い切ります。その真意にあるのは、メジャーレーベルが推せば売れて消費されていく陳腐な音楽ではないという自負。

――「スロータッチ」っていうジャンルを確立したいんですよ。

「シティポップ」という言葉が浸透したように、売り出す人や評価する側の安易なカテゴライズ、ジャンル分けによって流行が作られる印象の強いここ数年。カテゴライズは便利な反面、そのミュージシャンを知る上で余計な情報となる場合も多いです。

いつぞやの椎名林檎が提唱した「新宿系」にも似た主張。当時の椎名林檎の心境や上京は分かりませんが、きっと彼女も安易なカテゴライズして安心する世間に嫌気がさしていたんじゃないでしょうか。

「スロータッチ」というジャンルを名乗りたいと話す掛も、ミュージシャン主導で世間のリスナーを動かすことが理想だと言います。

そんなSTEPHENSMITHの温故知新とは

クラブやライブハウス以外、街角にもカフェにも帰路の途中にも映える、いつでも心に暖をとらせてくれる音楽。

音の切れ間に流れるのは心地よくちょっと都会的な空気感。正直「行間」がこんなに魅力的なバンド、なかなか思いつきません。

そんなスリーピースの少ない音数と掛の柔らかい声の相性も抜群で、音と音の間に細胞液のように浸透していくボーカルとメンバーのコーラスワークは言うことなし。あと電子音にも合いそうなのがグッドですね。

ブルースやヒップホップ、ソウルの要素を受け継ぎながらも日本人の心にグッとくるメロディのツボみたいなものもしっかりと抑えており、まさに「温故知新」。東京での活躍が想像しやすい数少ないバンドである気がします。決して言い過ぎではなく。

――毎年誕生日に1年間の目標を表明してるんですよ。23歳の目標は「名曲をつくる」。曖昧でしたが、24歳はメジャーアーティストのオープニングアクトです。

毎年着実に歩みを重ねているSTEPHENSMITH。福岡に彼らが居てよかった。

飾らない素敵な人間性と温故知新なグッドミュージックに敬意を込めて、当サイトでのジャンルを「SLOWTOUCH」と表記しておきます。

掛優大:2013年福岡で結成のトリオバンドSTEPHENSMITHのフロントマン。 2014、15年りんご音楽祭出演、2016年circle出演、同年9月に全国流通音源「Sexperiment」をリリース。2017年より活動拠点を東京へ移す。ルーツミュージックを通じて温故知新の音楽を追求しています。